民芸調の額に入ったサンプラー。

額入りのサンプラー(38 x 28 cm)、1889年に作られた物、Annie Mabel Bridge という名前の女の子が頑張って作った刺繍、お手伝いさんに手伝って貰いながらやったのだろう、ヴィクトリア時代の終わりだからこれ以上後になると花嫁修行でもあるサンプラーなんか良家のお嬢様もやらなくなったと思う。1900年代になると女性の生き方の選択肢はぐっと広まるから財産のある家に嫁ぐことの意味も変わっていったと思う。そういう意味では19世紀末のサンプラーは前時代的だ、でも額はこの時代に流行ったアート・アンド・クラフト運動の典型のような素敵なものだ。とても素敵な作品だと思う、額も魅力的、全体のバランスが良い。サイズも小さめで日本人向きだ。

まだG・マルケスの「十二の遍歴の物語」を読んでいる、全体として全く素晴らしい本だ、最初に「緒言」と題してこの短編集の成立過程についての八ページの文章がある、これがとても良い、読み方によっては芸術論としても読める、物語を書くことについての深い洞察がある、創作全般に敷衍して読み取ることも出来る。素晴らしい本とは前書きだけで十分に満足させるものだ、素晴らしいコース料理の最初に出てくる一品がとても美味しくて、もうそこで十分に満足してしまうような感じ。詰まり、その前書きだけで凡庸な本全体を凌ぐ満足感が得られるのだ。

物語、とは、ものを語る、こと。元々は人が集まり、そこに一人の語り手がいて、語られたものがモノガタリの原形だと思う。この時代に最も欠如しているのは本物の語り手だと思う、コンビニのパンのように添加物満載のカタリテに慣れ切っている人にはマルケスのような存在は遠過ぎるのかもしれない。

マルケスを読みながらミラン・クンデラを思い出した。もう一人の語りの巨人だ。