ペーパーウエイト

ガラスのペーパーウエイト(直径約5cm)、恐らくフランス製。時代は20世紀初頭か、もう少し古いかもしれません。中の模様が細かく綺麗です。作家のカポーティが若い頃フランスの作家コレットに会いに行き、そこでコレットから(確か)バカラか何かのガラスのペーパーウエイトを貰い、後からそれがとても高価なものだと知って驚く話しを読んだ記憶があります。

(前々回の続き)

東京から西へと彷徨いながら、結局親に説得されて九州の実家に一度戻り、また大学に戻って勉強をちゃんとするように言われて、沖縄に帰りました。元居たアパートにまた帰り、大人しく大学に行ってましたが、まだ災難が待ち構えていました。ある夜寝ているときに、夜中の3時位ですかね、いきなり誰かが声を荒げてドアを乱暴に叩く声で起こされました。車が邪魔だから動かせ、と叫んでいるようで、そんな筈はないと思いながらもドアを寝ぼけまなこで開けると、ガラの悪そうな若い男が立っていて、車を動かせといきり立っているので、仕方なく階段を下りていくと、僕が狭い階段の中程まで降りると今度はもう一人の男がナイフを持った手を上に大きく挙げて叫んでいました。僕は階段の真ん中あたりで男二人に挟み撃ちにされ、全く逃げようがありませんし、暗闇の中にナイフの切っ先がキラッと光って見えて一気に目が覚め、瞬間の判断で勢いよく下へ向かって行き、夢中でその男のナイフを持った手を摑み、揉み合いになりましたが、次の瞬間自分の身体が彼よりも下になり、背後からナイフで刺されると思うと物凄い恐怖で、一心に階段を駆け下り逃げました。この男は僕の下の階に住んでいたとび職か何かの兄弟で恐らくですがシンナーか何かをやっていたのでしょう。日頃から変な目付きで睨まれたりしていたので。次の日に恐る恐るアパートに戻り階段を上がると、階段には血が二三滴落ちた痕がありましたね。僕は切られていないので、揉み合ったときにその男が自分を傷付けたのでしょう。まあ恐ろしい経験でした。

実はこの事件が起きる一年程前ですか、前のアパートに住んでいたとき、その近くのマックの辺りの小道を夜歩いていたら、ふと年配の女性に呼び止められ、どうしてそうなったのか覚えていないのですが、手相を見せると彼女がこう言ったのです。あなたの七代前の先祖が刀で人を沢山傷付けているので、その祟りがあなたに及ぶかもしれないので刃物には気を付けなさい、と。その後自分の父方の先祖が本当に江戸時代には刀を使うような職業に就ていたことを知るのですが、そのときはそんなことも知らず、変なことを言う人だな、とただ思ったのですがその一年後に本当にナイフで刺されそうになるとは。

話しが上手く出来すぎていますが全て脚色なしの本当の話しです。インドに行き赤痢になり隔離され、その後遺症で死にかけ、そして家出、それからナイフで刺されそうになる、と言う散々な一年でしたね。久留米の大学病院で隔離され、げっそり痩せて実家に帰った日のことも忘れられません。余りにも痩せて座る体力も失い、ぐったり横になってテレビを見ていると、画面に緊急速報のテロップが何度も流れて、それはあのジャンボ機が富士山麓で行方不明になり墜落したと言うニュースでした。ぐったりした身体でぼーっとテレビを眺めているときに不吉な速報が何度も流れていたあの嫌な感じは今でも記憶しています。

兎に角、奇妙な一年でしたね。