小さな珍しいシルバー・スプーン

小さな珍しいシルバー・スプーン(長さ 9 cm)、ロンドン、1802年製で工房は、William Eley & William Fearn。最初このスプーンを仕入れたとき用途が分かりませんでした。普通この形のスプーンなら 13センチ位ありもっと大きいのです(最後の写真を見て下さい、当時のティー・スプーンと比較してあります)。またソルト・スプーンは先の部分がもっと丸いのでこれも違います。シルバーの専門書を見ていたらこれと全く同じ物を発見して謎が解けました。マスタード・スプーンのセットでした。とても珍しいです。売りやすい物ではありませんが、美しかったので仕入れました。

23歳のとき、自分は沖縄の宜野湾市にある北向きの三階建てのアパートに住んでいました。北向きや西向きの建物に住むとき自分の人生は何時も暗いようで、このときの一年余りも最悪でした。先ず、その年の夏、一人インドを数週間うろうろして帰って来て赤痢が発覚し二週間隔離され、その後も抗生物質の後遺症で死にかける程体重が落ちました。その秋、自分は人生に行き詰まっている、と勝手に思い込み、当時の国立大学の半期の授業料10万8千円、親が振り込んでくれたお金を全額引き出し、何の計画も無く、全てがイヤで、那覇発羽田行きの飛行機に乗りました。その前日も不安で堪らず、朝までコザの歓楽街にある外人ディスコで友人のイソキチと遊んでました。帰りの車の中でイソキチに、全てを捨てて沖縄を出ようと思う、と誰かに言いたくて堪らずに言うと、彼は、お前にはガッカリした、そんなことは誰にも言わずこっそり一人でやるものだ、となじられました。その日の夕方、バイト先や同居してた友人などにも一切連絡せず、飛行機に乗り込み、機内の窓から滑走路のオレンジ色のライトが流れるように視界から離れて行くのを、不安に押し潰されそうな気持ちで眺めていました。こんなことをしても何も上手くいかないと分かっていながら、そうせずにはいられませんでした。その夜は新宿か何処かの安ホテルに泊まりましたが、とても暗いとき人間の記憶はまだらになるようで、実は余り覚えていません。そのベッドだけが矢鱈大きいホテルの白い部屋で寂しくて堪らなかったのは何となく記憶にあります。(続く)