古いティーカップ二つ

イギリスの古いティーカップを二つ。大きい方はダービー(Derby)工房のChelsea-Derby期の物(5,3 x 8,2 cm)で時代は1770年頃。写真にあるように錨マークに大文字のDを合わせた模様が金彩で描かれていて、これがChelsea-Derby期のダービー工房のマークです。小さい方は恐らくほぼ同時期の中国の物(4,5 x 7,3 cm)でイギリスに輸出された物だと思います。前にも書きましたが、この時代は一つのソーサーにティーカップとコーヒーカップが二つ付いてセットだったので、それがばらけるとティーカップだけがソーサー無しで出て来るということです。金直しは日本で職人さんにやって頂きました。とても綺麗な絵心のある金継ぎです。

今回のコロナ禍で新幹線の開通が金沢にもたらした経済効果も五年足らずで糸がぷっつり切れるように突然に終わりました。世界中からの観光客で賑わっていた街中の活気が今や幻のようです。誰がこれを予測したでしょうか。街全体が調子に乗り過ぎていたと言われれば、その通りだと思います。片町の歓楽街の路面店にも店が早撤退した後の空き店舗がポツポツと目立ち始めています。飲食店も、「金沢カレー」とか、「金沢」を食べ物の名前の前に付けてそれがさも特別で付加価値のある物の如く喧伝するのが流行ってました。「金沢コーヒー」なんて何なのでしょう、そんな物あるのでしょうか。それから、何でもかんでも金箔を混ぜる、と言うのも流行ってました。金箔アイスとか。「金沢」と言う名前に何か魔法のような力があるのでしょうか。この近年の乱開発で残念なのは、金沢の街中に以前は見受けられた市井の人々が慎ましやかに暮らしていたその佇まいの魅力が、異常な開発の陰に押しやられて見え難いものになってしまったこと、ではないかと思います。簡単に言えば、普通の暮らし、と言うものが街から姿を消して、何もかもがツーリスト仕様になった、と言うこと。残念ですね。この五年くらいで地味だけれど味のある真面目な地元庶民の為の小さなお店が随分と姿を消しました。東京や関西から来られる人にとってもそういう店こそが忘れられない場所になったのではないかと思いますが。新幹線は便利ですが街を無個性にしてしまうと言う点では上手に導入しないと厄介なものにもなり得るのです。

今回のこのスローダウンを切っ掛けに、またこの街、金沢が以前のような「普通の顔」を取り戻して欲しいと切に願っています。