1800〜20年頃のカットグラス

1800〜20年頃のイギリスのカットグラス(8,5 x 6,0 cm)です。大きさからすると用途は微妙なところ、ジングラスには大き過ぎるしワイン用には小さ過ぎるのだが、当時のワインは度数も高かったらしく少しずつ注いで飲んだそうなので、ワイングラスかもしれない。まあそれは置いといてもハイクオリティのカットグラスである。この時代のグラスはフット(脚)の部分が大きく厚いのが特徴である。ガラスの生地にも若干の不純物の混入が見られるがこれもこの時代には普通にあることだ。渋いグラスだ。


今年で当店も二十三年目になる。以前来られていてもう来なくなったお客さんの中に、印象深く忘れられない人がいる。今日はそんな一人について書いてみよう。十二三年前だろうか、彼は近隣の都市にある社員食堂で調理師をしていた当時五十位の人で、時々僕の店に来るようになっていた。小柄で痩せて眉間に深い皺が刻まれ髪型も昔流行ったリーゼントのような感じで、一見するとコワイ人に見え、ちょっと関わりたくない印象を与えた。店に来る時も思いつめたように若干俯き加減でドアの正面迄歩いて来ると、そこでサッと軍隊風の直角ターンを打ち、そこから今度はドアに突撃するように一歩一歩近づいて来る。その顔も真剣深刻で、それに慣れるまでは中にいる僕は、お客さんが来ると言うよりは、一人の思い詰めた人間が迫ってくる感じで、怖かった。初めて彼にお茶を出したときの彼の顔も忘れられない。あの頃は店にカウンターがあり僕はカウンター越しに接客をしていた。その日、カウンターの向こうに立つ彼の胸元にお茶を差し出して置くと、その時彼の顔が、丸でお茶を出されたことが人生で初めてでもあるかのように、とても大きく驚いた表情になり、もう何か僕がそこに小さな時限爆弾でも置いたかのような驚きようで、その後小さな声で俯いたまま、あの、友達はいないけどxx友と申します、と手短かに自己紹介をしてくれた。お茶を出してあんな驚いた表情をされた僕こそとても驚いていたのだが。(次回に続く)