イギリス18世紀のグラスを集め始めた頃

今から約三十年前の話しです。僕はバブルに浮かれる当時の日本が嫌で、出来るだけ日本人を見ないところ、という選択でアイルランドのダブリンに住んで、何をするでもなく時々日本語教師をしたりで、たまに翻訳(もどき)の小遣い銭稼ぎをする他はパブでギネスを飲んだりカフェを彷徨いて、将来の展望もなくただ暗く鬱屈した毎日を過ごしてました。二十代後半の頃です。その頃たまに街中のアンティーク・ショップを覗いたりしてこの写真にあるような18世紀後半から19世紀にかけてのイギリスのグラスを少しずつ買い集めてました。特に18世紀後半のストイックで硬質感のあるシンプルなグラスにはとても惹かれていました。昼間はアンティーク屋を覗いたりパブやカフェで暇を潰すと、夕方は電車とバスを乗り継いで2時間程かけ、ダブリン郊外のコミュニティー・スクールに行き大人向けのクラスで日本語を教えていました。息子が日本で働いているという年配の女性や空手をやっていて日本刀に興味がある若い男など生徒の年齢も習う動機もバラバラ。ハーイ、モーリーンさん繰り返して下さい、アタタカイ、アタタカカッタ、アタタカクナカッタ、なんて言いながら二時間怪しい日本語を教えて、また二時間かけてバスと電車でダブリンに戻る。道中何処も本当に暗いんです、当時のダブリンは景気もまだ悪く暗かったですね。冬なんかは天気が悪いと一日ずっと夜みたいで精神的には堪えました。自分の中にある闇がその暗さに炙り出されるみたいに感じて、ズーッと部屋で寝ていると今まで思い出したこともなかったような、子供の頃の些細なことを思い出したりしてどんどん暗くなるんです。夕方買い物なんかに出て外を歩くと暗く霧と石炭の煤煙で霞んだ中を雨が降っていて、スーパーのビニール袋を頭から被った人が一人俯いて歩いていたり。こんなことを書くんじゃなかったですね、、。兎に角、自分の人生の先も見えずに鬱々としていた頃に僕はイギリスのアンティークグラスに惹かれていったのです。まあそういった意味では、この辺りのアンティークが僕の原点、スタートですね。