蔵前の古書店での出逢い。

東京で前泊する為に蔵前のホテルに泊まった、夕方ホテル近くを歩いているとただならぬ雰囲気の古書店がある、カメラを持っておらず仕方なくスマホで撮ったので写真がやけに明るいが実際は夕方の暮れようとする光の中妖しく浮かび上がって僕の目を捕えた。僕は大通りを渡り店に入った、店の手前右側には水槽があり大きな熱帯魚が一匹泳いでいて、一番左の狭い通路から奥に行くと小柄な店主がいた。僕は田村隆一の「詩人の旅」(中公文庫)を求めながら店主に、もう何年お店をされているのですか、と訊いた。とても綺麗な目をした男性で、店を開いて五十五年、彼は今年七十四歳、十九歳で店を開いたことになる。話していたら彼と僕には古書業界の共通の知り合いもいることが分かり話しが弾んだ。彼は、九十歳まで店をやるつもりです、と綺麗な目で話してくれた。店構えからそうだとは思ったがネット販売は一切してないらしい。彼の父親が事業に失敗してからの彼の人生の顛末も語ってくれた。僕は時間もなかったし僕の後ろで若い女性が古本片手に支払いをしたそうにしていたので僕は彼女を通す為にも店を出た、本当に通路が狭いのだ、ちょっと面白そうな雰囲気の女の子だった、こういう変わった店には矢張り変わった客が引き寄せられて来るのだ。渡英前の素敵な出逢いだった。幸先良い感じでもあり、これからの旅が楽しみだ、今回はアムステルダムとダブリンにも行く。アムスはパイプの仕入れと僕のパイプの師匠兼友人に会いに、ダブリンは詩人の友人に会いに行く。