ブラジル的解決法。

数日前のこと、夜中の一時頃下のキッチンで音がしている、僕に自分の横の部屋を貸している女性ローラが片付けをしているようだ。僕はお茶が飲みたかったのでお湯をケトルで沸かそうと下に降りていく、ローラはブラジル出身でキッチンの横にはマシューという名の同じく40歳くらいのブラジル人がいる、ローラは小柄で丸め、働き者の明るい子、マシューも小柄、痩せて物静かなタイプ。夜は何時も下のキッチンからポルトガル語が響いて聞こえて来る。

僕はローラと雑談していた、すると玄関ドアに激しいノックの音がしてマシューの声がする。彼女がドアを開けてやる、とマシューが入って来るなり、家の鍵をバスで落としたと言う。自分の部屋鍵も無い、もう既に二時近かった。二人はスマホで鍵をこじ開ける動画を検索して見始めポルトガル語で話している、バスのガレージに電話したらとかローラが提案していたがマシューは工具を取り出し自分の部屋のドアの前にしゃがんで鍵穴に細い金具を突っ込みガサガサやりだした、僕はマシューの後ろに立ち鍵穴がよく見えるように彼のスマホを持ち明かり係をする。ローラはキッチンで何やらアドバイスをしながら椅子に座っていた、恐らくアドバイスだろう、僕には一言も分からない。

半時間近くやっていただろうか、ここ全体の大家がいるのは僕はローラから聞いて知っていた、大家に電話出来る時間でもないしローラもマシューの合鍵は持っていない。マシューはずっとしゃがんだままガサガサやっていて鍵穴の上のハンドル部分と金属プレートは外されていた、鍵穴が見易いように。突然目の前のマシューが立ち上がった、と思うと足を上げいきなり強くドアを蹴った、ドアは蹴破られ鍵の金属部分は周囲の木と一緒に吹き飛んで落ちた、僕のほうをチラリと向いて一言小声で、警察が来て蹴破ったんだ、とニヒルな笑顔で言う、キッチンのローラはオーマイゴットと言った表情で無言で俯いていた。僕は人がドアを蹴破るのを初めて見て少しびっくりしていた、スマホをマシューに返し二人にグッナイと言って二階に上がった。白いドアの木は縦に大きく剥がれていた、丸で野獣が爪でも立てたように。(続く)