パイプスモーキングについて

常連のお客様と話しててパイプの話しになり、パイプを吸うことについて書くことにした。その気になれば書くことは沢山ある、パイプ喫い始めてから約三十五年、長いと言えば長い。僕の店でパイプを買い、パイプスモーカーになった人も結構いる。最近も二十代と三十くらいの女性が二人パイプスモーキングを始めた。

木のパイプはブライヤーという木の根っこから作られる。パイプのボール(丸い)部分にある穴にパイプ用のタバコを詰めて、ライターでタバコに火を点けて喫う。シガレットと違う点は煙を肺に入れずに口の中だけで楽しむ。煙は自然と外に吐き出されるので無理に吸い込んだり吐いたりもしない、パイプを咥えた状態で息をするのと同じ要領で吸う吐く吸う吐くを無理なく繰り返し、それでボールの中に付いた火をゆっくりと保たせていく。上手くなればなるほどゆっくりと静かに喫える、所謂「クールスモーキング」が出来るようになる。同じタバコを詰めてもパイプによって喫い心地が変わる、パイプの木が本来持ってるリズムみたいなものがあり、そのパイプのリズムにこちらが合わせるようにして喫う。良いパイプほどそのリズムもゆっくりとしているし、自分の呼吸の僅かな乱れにも綺麗に反応する。パイプは上手なスモーカーが丁寧に喫えば百年以上持つ、僕が所有しているパイプの何本かは19世紀末から20世紀初頭の物だ。立派なスモーカーが昔に喫い込んで育てたパイプを自分が受け継いで丁寧に喫い込んでいく。

パイプスモーキングとは何かと問われれば、それは「呼吸を習う」ことである。出来るだけ無理のない自然な呼吸でパイプを喫い、パイプを自分の身体の一部にすることが理想である。「沈思黙考」、これがパイプスモーキングの目指すところだ。パイプスモーキングが本当に身につくには十年は掛かる、そこからが本当のスタートである。四十歳の人が始めれば五十になる頃にパイプスモーカーの雰囲気を帯びてくる、簡単に言うとパイプが似合ってくる。まあそれくらい息の長い時間の掛かる趣味なのだ。その辺りが葉巻とは大違いだ。(続く)

写真のパイプは70年代のダンヒル(短いほう)と同時代の無名の高級パイプ。