レモンスクイーザー型模様のゼリーグラス

イギリス、1800年頃のゼリーグラス(高さ 9,3 cm)、普通このサイズでこの形状ならワイングラスなのですが、縁に波状のカットが施されているので恐らくシルバースプーンでゼリーなどを食べたグラスでしょう、裏にはこの時代に流行ったレモン絞り器(レモンスクイーザー)模様の型押しの装飾が入っています。とても珍しいグラスです、味のある個性的なグラスです。

佐多稲子の「夏の栞」(新潮文庫)を読んでいる、佐多稲子は今迄読んだことがなかったし、長崎生まれの作家ということも知らなかった。彼女が親しかった中野重治の死を中心に書かれた小説だが、ここ数年手を付けたものの中で群を抜いて面白い。心理描写が細やかでその襞を言葉で綴る技術が高く、読んでいて惚れ惚れとするくらい上手い。こんな文章を読んでしまうと他の作家を直ぐには読めなくなる。

先日本屋で最近芥川賞をとった女性作家の小説を立ち読みした、割と書けるというかそこそこ上手い文章だが、読んでいて疲れる。理由は簡単、言葉が浮いていると表現したらいいのか、自己顕示欲ばかりが目立ち、言葉に(内から湧き起こる)内的要請が全く感じられない、昨今の巨大なアートピースにも似ていて何の裏打ちもないテクニックばかりが煩雑に映りこちらが疲れるのだ。井伏鱒二の「多甚古村」というのも読んでいるが、いやぁ、渋いの一言、とても良い。石川県出身の芥川賞受賞女性作家にもそんな自己顕示欲ばかりの疲れる作家がいたな、、。後は、まぁこういうタイプは目立ちたいんでしょうね、でも受賞してしばらくすると賞味期限が切れ見かけなくなる本も本人も共に。次から次に新しいのが現れるから忘れられるのも速い。

佐多稲子さんの「夏の栞」とてもお勧めします、昔の折り目正しい言葉に触れたい方に。こんな小説を読んでいると、昔の人の人生の厚みと重さをとても感じます。嫉妬すら覚えます。

火曜から店に人が来ません、世の中から忘れ去られた存在のようにひっそり静かです。来ないときは焦ってもしょうがない、人生は波とリズムですから。まぁお茶でも飲んで考える、大体売ってる物が偏ってますからね、流行も関係ないしネット販売もしないので来店する人がいなければヒマ。店の入り口にある鉢植えの枝垂れ桜が今年はしっかり花を結び今五分咲きです。嬉しいですね、何と無くそれだけで良い気分です。