「パーフェクト デイズ」

ヴィム・ヴェンダース監督の映画「パーフェクト デイズ」観てきました。役所広司主演、三浦友和も出ています。とても良い映画でした、役所広司演じる東京の公衆便所の清掃員の日常を淡々と描く映画、特に何が起こる訳でもなく、同じことの繰り返しの単調な日々が描かれているだけ。それでいて観る人を静かに引き込んでいく力がありました。映画を観た夜ヴィム・ヴェンダースがこの映画の成り立ちや映画作りの手法について語るロングインタヴューをネットで観ました。勿論、この映画を観たからインタヴューを観ることに意味がある訳ですが、ある意味映画より刺激的で面白かったです。この映画は歌手で詩人のレナード・コーエンが六十代で禅僧になりアメリカの禅寺で修行を積むらしいのですが、その辺りからヴェンダースはヒントを得てこの映画の主人公ヒラヤマを思い付いたそうです。この映画のベースには仏教的、禅的な考えが流れていますし、ヴェンダース監督の中でそれは十分に咀嚼され彼自身の中で哲学的なものになっています。僕たちが毎日繰り返し見る何気無い風景、便所の掃除という誰もがやりたがらない作業、日常生活の中での他人とのさり気無い触れ合い、木々が織り成す光との綾、そんなものたちに自分なりの意味を感じながら暮らしている一人の男。思うところがあってj社会的地位とお金を捨て、安アパートに住み便所掃除の仕事をして、淡々と暮らすヒラヤマ。それは僕には隠者の思想を少しだけ連想させました。何も起こらない映画、クライマックスもない、でもその「無風」の背後に流れてるものはとても深い思想で、ある意味難解な映画です、簡単に見えて。僕の友人はヴェンダースの映画は視覚的に、そして語りの手法がホッパーの絵に似ている、と言っています。成る程、エドワード・ホッパーか、面白い指摘です、ホッパーの絵も一見何気無い普通の装いでとても深いですね。そう言った意味で難解。そして画面に漂うあの独特の豊かな静謐感。