バスでの出来事

昨日バスでノッティングヒルから帰宅していたときのことです。折り畳み式トローリーに括り付けた段ボールの箱が倒れないように支えてバスの一階の席に座ってました。最初は丁度良い席がなかったのですが中年の男性が席を譲ってくれたので助かりました、唯何処からともなく汚物のような臭いがしてそれも可成り酷いのです、まあイギリスだしこんなこともあるだろうくらいに思っていたら、バスが急にバス停でもない所で止まり、黒人の若いドライバーが運転席から降りこちらを向いて立ち手を前で重ね、丁寧な口調で話し出しました。「皆さん申し訳ありませんが、このバスには異臭が立ち込めています、誰かがお金持ち払わずバスに乗りこの異臭を振り撒き皆さんの鼻は詰まってしまっています。お願いですからバスから降りて頂けますか」、そこまで彼が穏やかに言った後バスの中はシーンとして誰も動きません、数秒の沈黙の後、「僕はあなたに言ってるのですよ、降りて貰えますか」、ジッと彼はある人を見詰めていました。僕の向こう斜め前にいた七十位の白髪で太った白人女性が使い古した大きな買い物袋を持ちゆっくり立ち上がりながら捨て台詞を吐いてバスから降りて行きました。このドライバーは毅然としながらも丁寧な言葉で落ち着いた話し方でそれがとても印象的でした。イギリスも最近はバスや地下鉄の職員をターゲットにストレスをぶちまける人も多いようですし、地下鉄の通路にそんなポスターも見掛けます。

その人が降りた後確かに臭いは消えまた普通にバスは走り出しました。もう一つ。こんなときでも、周りのイギリス人は、文句を言ったり、その女性を攻撃したりせず、異臭がしても黙って何もないようにしている、ことが終わっても誰も何も言いません。それは、ある種の優しさのようにも見える、僕が『偉大なる無関心』と呼んでいるもの。

短いバスの移動での今のイギリスを垣間見るちょっとした出来事でした。