シルバーのティー・トレー、ロンドン、1816年製

シルバーのティー・トレー(18,4 x 14,8 x 2,8 cm)、1816年ロンドン製。小さな品の良い高級トレーです。当時の支配階級又は大商人、地主などが用いた物です。花模様だけを見ると19世紀後半に一見見えますが、’EE’ のイニシャルの装飾やシルバー面の表情などを見ていると矢張り19世紀初頭の物だと分かります。素晴らしいシルバー・トレーです。適度な厚みがあり置いたときの感じも落ち着いています。上に同時代のグラスを置いてみました。

この時代にこんな物を使って暮らしてた人は自分で手を汚して働きはしません、基本、資産や広大な所有地の管理をして暮らしてた訳で、18世紀後半の産業革命で現れる繊維工場などの経営者はここには入りません、彼らは日夜忙しく働いていたので、支配階級とは簡単に言えば働いてはいけない、のです。ロンドンのシティで働く金融業に携わる人達もこの頃から支配階級に準ずる身分を獲得していったそうです。彼らも自分の手を汚しては働きませんね。変な話しですね、手を汚して働くことの何処が悪いのでしょう。

川北稔さんのイギリス近代史の本に上の様なことが書かれていてとても面白く読んでいたのですが、あることがふと閃いたのです。昔、アイルランドやイギリスでアンティークショップを巡っていた頃、高級銀器を扱うアンティークショップでは店の主人はシルバーを決して磨かず、たまに肉体労働者風のおじさんが店の中で銀器を磨いてバイトしてるんです。丁度たまにやって来るガラス拭きのおじさんみたいに、、。何故高級アンティークショップの男性は自分で磨かないのか。恐らく、自分の手を黒く汚してシルバーを磨けば店の格、ステータスを落とすことになる、そういう考えが彼らにはあったのではないか。川北さんの本を読んでて、手を汚して働く階級、について考えていたときにふとこのことを思い出したのです。まあでも、そんな高級アンティークショップが街に普通にあった三十年くらい前のことですがね。

確かにイギリスでは街で手を汚して働いている人達の多くは移民やその子孫ですね。手を汚して働くこと、イコール、身分が低い、という考え。日本にもそういうのありますがイギリスのほうが顕著ですね、歪な考えですね。僕が昔バイトしてたアイルランドの日本人補習校が正にその考えに添ったヒエラルキーで動いてましたね。とても変でした。